パソコンか携帯電話さえあれば、指1本動かすだけで、いつでもどこでも世界中とつながることができる。現代では当たり前のライフスタイルも、この男がいなければ、きっとまだ実現していなかった。
スティーブ・ジョブズ、現在のパソコンの元祖を作り、100年後もモーツァルトやダ・ヴィンチと並ぶ天才として名を残すだろうと称えられる人物だ。彼が世に送り出した、iPod、iPhone、iPadは世界的大ヒット商品となり、今では生活必需品へと姿を変えている。2011年に56歳の若さで他界した直後から、彼がいかに仲間たちと素晴らしいマシンを作り出したかが様々な形で紹介されてきた。
しかし、『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞®を受賞したダニー・ボイル監督と、『ソーシャル・ネットワーク』で同賞を獲得した脚本家アーロン・ソーキンという二人の異才が手を組んで挑んだのは、パソコンの誕生話でも伝記でもない。
人々の心をわし摑みにした、新作発表会での伝説のプレゼンの〈直前40分の舞台裏〉だ。それもジョブズの生涯の最も波乱に満ちた時期の3大製品──1984年のMacintosh、自分が創業した会社アップルを追われて作った1988年のNeXT Cube、アップルに復帰して発表した1998年のiMacである。そこには信念を貫き通す生き様と驚嘆のビジネスセンスがあり、誰の人生にもどんな仕事にも生かせるヒントが溢れている。さらに、確執があったという娘リサとの間に本当は何があったのか、父としての顔にも真正面から迫る。初めて明かされる不器用すぎる親子の愛が観る者の心を揺さぶるにちがいない。世界が変わる瞬間の舞台裏を描き、本年度アカデミー賞®最有力候補の呼び声も高い必見の話題作が誕生した。
1984年、スティーブ・ジョブズは激怒していた。Macintosh発表会の40分前、本番で「ハロー」と挨拶するはずのマシンが黙ったままなのだ。カットしようという部下の意見に絶対に折れないジョブズ。そこへジョブズの元恋人のクリスアンが、娘のリサを連れて現れる。認知しようとしないジョブズに抗議に来たのだ。公私ないまぜに緊張感が高まるなか、15分前に何かが閃いたジョブズは胸ポケット付きの白いシャツを用意しろと、マーケティング担当のジョアンナに指示する。次々と繰り出すジョブズの不可解で強硬な要求に周りは振り回されるが、すべてには明確な理由があった。
自らがCEOにヘッドハンティングしたジョン・スカリーに励まされ、舞台へ出て行くジョブズ。だがこれは重大なプレゼンのたびに勃発する、開発チーム、クリスアンとリサ、そして自分自身との闘いの幕開けに過ぎなかった──。
スティーブ・ジョブズには、『それでも夜は明ける』でアカデミー賞®にノミネートされたマイケル・ファスベンダー。強靭なカリスマと迷える父親の両極を演じきり、ボイル監督に「恐るべき俳優だ」と言わしめた。ジョブズと闘いながらも唯一彼のやさしさを引き出せる存在だったジョアンナ・ホフマンには、『愛を読むひと』でオスカーに輝いたケイト・ウィンスレット。アップルの共同創業者のスティーブ・ウォズニアックには、『グリーン・ホーネット』のセス・ローゲン。
最初は名コンビと言われたジョブズを退社に追いやったジョン・スカリーには、『イカとクジラ』でゴールデン・グローブ賞にノミネートされたジェフ・ダニエルズ。原案は本人全面協力の唯一の伝記にして100万部のベストセラーである、ウォルター・アイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」。撮影は『ダイバージェント』のアルウィン・カックラー、音楽は『悪の法則』のダニエル・ペンバートン、衣装は『スラムドッグ$ミリオネア』のスティラット・ラーラーブ。膨大なセリフを制覇した実力派俳優たちの圧巻の演技と、ボイルのスタイリッシュな映像が生み出した、かつてない会話による緊迫のエンターテイメント!
アシュトン・カッチャー版は、ジョブズのヒストリーを丁寧に映しだしていたが、こちらの『スティーブ・ジョブズ』はジョブズが新製品の発表会で行うプレゼンテーション前に、ハプニングが起こる。
彼の周囲の人々と激しいディスカッションの会話ありきで、ストーリーは進んでいく。
ああ言えばこう言い返すという、ジョブズのネガテイブの面を上手く表現しつつも、彼のクリエイティブなモノ作りの姿勢を伝記にしている。
ジョブズを長年支えてきた人々と、彼の昔の恋人と認知されていない彼の娘、彼の仕事仲間たちとの様々な確執や自己主張をこれでもか?と見せられた。
しかし不思議だが、彼の実の妻や子供の話がストーリーには組み込まれていない。
アップル製品に魅了される顧客たちには是非観ていただきたい映画である。
『スティーブ・ジョブズ』2/12 札幌シネマフロンティアで公開
©Universal Pictures